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物語
誰にだってあるでしょ?
言いたくても言えないこと。
大切な人だからこそ、言えないこと。
6月のある日、静岡に住む叔母から段ボール箱が届いた。箱を開けると、中には丸々と太った沢山の夏みかんと小枝についたアゲハ蝶の蛹。その蛹を見て、麻央は幼少の頃に蛹で遊んでいたことを思い出す。用水路をすいすいと流れていく蛹、怖かった叔母、優しかった母――麻央は母の秘密を知ってしまって以来、今の母がどうしても好きになれないでいた。そんな折、叔母から従兄弟の恭正の大学見学に付き合ってほしいと頼まれる。静岡からやってきた恭正の東京見聞に付き合う麻央だったが、次第に、彼が本当は大学を見に東京へ来たわけではないのではないかと疑い出す。恭正は何をしに東京へやってきたのか。短編四作目となる本作は、新古の考え方が混じり合う現代に生きる親子の話。
登場人物
麻央
高校三年生。母の秘密を知って以来、母との関係を思い悩む。責任感が強く、従順で寂しがり屋。片づけが苦手。
恭正
麻央の従兄弟で幼馴染。高校三年生。受験する大学を見学するために東京へやってくる。寡黙で内向的。あまり感情を表に出さない。
※画像は本作品におけるイメージです。被写体と本作は関係ありません。
本作に込めた思い
自分にとって大切な人が自分の嫌いな人間に変わっていく。そんな時、どうしたらいいのでしょう? 相手に伝えるべきでしょうか。それとも、そっと胸に秘めておくべきでしょうか。
人は変わっていく生き物です。年齢とともに、環境とともに、時代とともに変わっていきます。他人の変化に口を出したり、それを責めたりするのは簡単です。でもその前に、自分が相手に何を期待しているのか、また、相手から何を期待されているのかを考えるのも一つの手かもしれません。だって、大切な人の傍にいる自分もまた、実は変わっているのですから。
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