物語
ベトナムでは『顔が遠いは、心も遠い』言います。
でもわたしは『顔は遠い、でも心は近い』。ずっと同じ。いつまでも、同じ。
爽やかな梅雨晴れの朝、大学一年生の小泉陸は成田空港からベトナムのハノイ、ノイバイ国際空港へと飛び立った。旅の目的は、ベトナムに住む旧友に会いに行くこと。陸は旅の同行者である釣り雑誌の編集記者、増本と話をするうちに、釣りばかりしていた小学6年生の自分を思い出していく。家の近くにある霊鎮湖に毎日のように通い詰めていたこと、その湖に住むと言われる金色に輝く幻の大魚『盈月』を追いかけていたこと、そしてその盈月を追う中で偶然出会ったベトナム人技能実習生『クオン』との楽しくも苦く切ない思い出ーー。
過去に置き去りにしてきた自分と向き合う陸。死にものぐるいで未来にすがりつくクオン。運命の糸に引き寄せられるように再会した二人がベトナムの地で見たものとは……。
登場人物
小泉陸
大学一年生。三人兄弟の末っ子。小学六年生の時にバス釣りにはまる。黒川プロに憧れ、自作のルアーを引っさげて盈月を追いかけていた。その腕はプロ並みだが、臆病で繊細。母親との間に妄執を抱える。
クオン
ベトナムから来た技能実習生。弁当工場にて夜勤で働く。日本語や日本の技術を学ぶことに意欲的で、賃金や労働環境に不満を持つ。純朴で家族思い。頑固で冷静、行動力がある。多額の借金を抱えている。
黒川プロ
世界を股にかけるバスプロ。巨大魚ハンター。外見は軽薄だが、釣りの腕前は超一流。世界中で釣りをした動画を紹介している。心から釣りを楽しみ、純粋に釣りを愛す。マイペースで友達思い。好奇心の塊のような男。
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本作に込めた思い
アメリカ人は金髪で背が高くてマッチョで、イタリア人はワイン好きで浮気性で、メキシコ人はいつも陽気にバンジョーを弾いていて……。
誰かが作ったイメージというものは、いつも現実とは少し違っています。
日本人の中にも、若者と老人、都会と田舎など、生活習慣や考え方に違いがあるように、一括りにされた集団の中には実に様々な個人がいるものです。
あの人は中国人だから、あの子は韓国人だからーー。社会で共有されるイメージは、必ずしもその人自身の個性と一致しません。ステレオタイプで他人を見るのは簡単なことですが、人と接する時には、『森を見るように木を見る』ことも大切だと思います。