物語
「おれ今まで生きてきて楽しいと思ったこと、一度もないよ」
それは、親友からの言葉だった。
川幅二百メートルの大河『龍神川』が町を二分する新田町と北保示町。龍神川は過去に大氾濫を起こし、新田町を浸水させていた。その新田町で生まれ育った幼馴染の四人――ベンチャー企業の課長『義明』、花屋の息子『岩男』、地元の工場で働く『翔平』、そして画家の『ケン』――は、それぞれに災害の爪痕を心に抱えながら何となく日々を過ごしていた。ところがケンは、あることをきっかけに人が生きるということに対する独自の哲学を深めていく。そして前を向いて進んでいくことを決意した四人は、真夏の夜にそれぞれの『過去』を燃やすことに……。ケンの人生を突き動かしたものは何だったのか――。一日ごとに過去に戻っていく構成の本作は、読み進めるほどに謎が解き明かされる。うだりおの長編小説第三弾は、社会で生きていくことに疲れたものとその中でもがくもの、両者を軸に人生の面白さを描き出す現代小説。
登場人物
平山ケン
画家。地元の美大を卒業後、自宅と山の上にあるアトリエを往復して絵を描き続ける。二十一年前に起きた竜神川の氾濫により心身に傷を負う。既婚。自律的でナイーブ。個人の自由意志を大切にしている。
山下翔平
工場勤務。プロのスケーターを目指すも途中で挫折。三人兄弟の長男。おちゃらけていて皆のムードメイカー。岩男をからかうことを生き甲斐としている。独身。酒、煙草、女好き。正義感が強く負けず嫌い。
永田岩男
母親の花屋を手伝う。高校の時にアメリカに短期留学している。太っていて一見するとおっとりして見えるが、実は頑固な理屈屋。雑学が豊富で話し出すと止まらない。独身。冷静でマイペース、ロマンチスト。
大原昭二
メーカー勤務。課長。来春に役職定年を迎える。妻と息子と三人暮らし。自身の老後に不安を覚え、だらしない息子と皮肉屋の妻に日々苛立ちを抱える。几帳面で真面目。保守的で外罰的。
※画像は本作品におけるイメージです。被写体と本作は関係ありません。