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執筆者の写真うだりお

特異点(仮)、第7回『従順』を公開しました!


皆さん、こんにちは。

大分、暖かくなってきましたね。Tシャツ一枚でも平気なくらいの陽気ですが、皆さんはいかがお過ごしですか?

約5年ほど前のことです。近所の公園で子供と遊んでいた時、砂場の方からスペイン語が聞こえてきました。日本でスペイン語なんて珍しいなぁなんて思って見てみると、砂場の縁に座って白人のママと日本人のおばちゃんがスペイン語で話していました。英語なら耳にすることはよくありますが、スペイン語です。それも日本人のおばちゃんが流ちょうに話しています。砂場でおばちゃんがスペイン語……。おばちゃんには申し訳ないのですが、絵的な違和感もあり、私は驚きました。そしてどうしてスペイン語を話すのかを聞こうとして聞けなかったことが強く印象に残っていました。

先日、妻がその公園の近くにある野菜直売所で買い物をしていた時のことです。袋一杯に詰まったパクチーを選んでいると、後ろで声がしたそうです。 「これ、美味しいのよ」 「本当? 俺、食べたことないな」 「食べてみなさいよ」 「いいよ、いらない」 みたいな会話だったんだと思います。妻が、「メキシコ料理とかに使われてて美味しいですよ」と言うと、そこにいたおばちゃんが「私、メキシコに35年住んでいたのよ」と言ったそうです。

ぴんときました。

妻からその話を聞いた時、私の頭の中にあった砂場の記憶がくっきりと蘇りました。 5年の月日を越えて、謎が解けた瞬間です。

そして3日前の水曜日、私はその公園にしばらくぶりに行ってみました。 するとそこに、少し白髪の増えたおばちゃんがいました。

私はおばちゃんに妻から聞いたパクチーの話をしました。そして、どうしてメキシコに行ったのか、メキシコでなにをしていたのか、色々と聞きました。おばちゃんは恥ずかしそうに、そして懐かしそうに当時のことを話してくれました。もちろん、私も私の話をしました。なぜスペイン語が分かったか、カリフォルニアにいたこと、メキシコに旅行に行ったことを話しました。そして最後になって、おばちゃんは私に年を尋ねました。私が年を言うと、おばちゃんは、「あなたと同じ年の息子がいるわよ」と笑いました。私は嬉しくなって、おばちゃんともっと話していたいと思いました。5年前は砂場のおばちゃんだった人が、今はとても近くに感じられたからです。なんだかとても暖かい気持ちになって、胸がじんとしました。5年前に埋めたタイムカプセルを掘り起こしたような、そして掘り起こして良かったと心から思えるような、そんな出来事でした。

偶然って素敵ですよね。

さて、連載小説『特異点(仮)』、第7回『従順』を公開しました。 https://www.riouda.net/jujun

今週もどうぞよい週末をお過ごしください。

Photo by Free-Photos

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