皆さん、こんにちは。
今日は朝から久しぶりの快晴です。ここのところずっと雨が続いていたので、空が晴れると、やっぱり気持ちも上を向きますね。
今週は、今連載中の『特異点(仮)』について、少し書きたいと思います。
タイトルは特異点、仮題です。
特異点と聞いて、数学における不連続な点、または無限に大きくなる極を思い浮かべた人もいるかもしれませんね。または、英語訳のシンギュラリティから、人工知能が人間の知性を超える時をイメージした人もいるかもしれません。どちらも正解です。私はこの作品で、『想定通りに振舞わない者』や『普通から除外された者』を書こうと思っていました。
舞台は今から50年後の未来。物語は2068年の12月に始まります。
国の人口が8000万人を切り、そのうち、半分以上が70歳以上の高齢者という時代。税収が低下し、地方行政は機能不全に陥っています。バスや電車は一日に数本しか走らず、街には古い不動産物件が廃ビルや廃屋として取り壊されずに残っています。国の借金は膨れ上がり、この国の未来に失望した若者が海外に飛び出した結果、25歳以下の若者が200万人を割った、そういう時代です。
すると、どんなことが起こるか?
役所、建設業、運送業などマンパワーが必要な業務は人手不足から上手く回らなくなります。コールセンターや受付係、スーパーの店員といった業務はAIで置き換えられます。コンビニ、ファミレス、ファストフード、どこへ行ってもヴァーチャルロボットが接客します。もちろん新しい職業も生まれます。VRクリエイター、DNA解析業、昆虫ハンター(昆虫食)。人々は今以上に孤立し、コミュニケーションの場をVR空間に移します。他人と関わる煩わしさから離れ、子供を産まない選択をする人が増えていく。子供の数が減り、教員の数が減り、学校が機能しなくなる。進学する選択をする人が減り、大学の数が減り、中小企業の数が減り、人々の繋がりが減っていく。そしてますます国の人口は減っていく……。
そんな中、ついに政府が動きます。
企業が子供を作ることを許可した法案、いわゆる『フジサキ法』が賛成多数で可決されたのです。
さて、ここで問題が生まれます。
それはつまり、企業が作り出した人間である『企業産』と、自然交配によって生まれた『自然交配型』の人間の2種類が、同じ社会に共存する世界になったということです。企業は競うように優秀な遺伝子を選りすぐり、政府高官や役人、はたまたアスリートや国防軍人になるべき人間を作ろうとします。一方で、自然交配によって生まれた人間は、先天性遺伝子疾患のリスクさえなくせずにいる。ここに不平等が生まれます。もちろん企業産人間の中でも格差は広がります。優秀な遺伝子を組み合わせた『企業産エリート』と企業産でも能力が上手く発現しなかった『企業産落ちこぼれ』です。自然交配の人間は企業産人間を嫌い、企業産人間は自然交配の人間を見下す。企業産の中でも、エリートと落ちこぼれで諍いがあるというのに。こうして人々は、自分と同じ人間とだけ付き合うようになり、それが細かなグループを幾つも生み出し、互いに牽制し合い、時には争い、殺伐とした社会の空気を醸成していく――。
ここまで。が、構想当初、私が思い描いた50年後の世界です。
この物語の主人公は、企業産落ちこぼれの25歳、柴崎望(シバザキノゾム)と言います。彼は自分のアイデンティティを構築できずに日々を過ごしています。彼がこの世界をどのように生きていくのか、気になった方はぜひ読んでみてください。
では、連載小説『特異点(仮)』、第27回『ハナゲの逆襲』。
どうぞお楽しみください。
Photo by 愚木混株
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